[Events | 群馬大学 柴田研究室 (HCI Lab)]

敦賀市「ちえなみき」見学の報告

2024年3月19日、敦賀市が経営する書店「ちえなみき」を見学した。「ちえなみき」は八戸市が経営する八戸ブックセンターに次ぐ、日本で2つ目の市が運営する書店である。八戸市が「本のまち」を掲げているのに対して、敦賀市は「まなびのまち」をキャッチフレーズとしてかかげている。

敦賀市の紹介

敦賀は人口6万人。日本とシベリアをつなぐ港町として栄えた。北前船の立ち寄り港でもある。

日本海側にできた最初の鉄道も敦賀だったという。琵琶湖と日本海をつなぐ輸送路としての役目を果たした。

敦賀は歴史に登場することも多い。有名な金ケ崎城は、市の北側の海沿いの高台にある。新田義貞が打ち取られた場所であり、織田信長が浅井の陰謀に気づいて朝倉攻めを取りやめた場所として知られる。

高校野球では、雪の降る日本海側でありながら、常勝軍団を作り上げた敦賀気比高校が有名だ。

人口の割に売り込むコンテンツが多いことがうらやましい。私が訪れた3月19日の数日前 (3月16日)には、北陸新幹線が金沢から敦賀まで伸びた。伸びた先が県庁所在地である福井市を飛び越えて敦賀市だったことを意外に思っていた。やはり、それは敦賀が京と日本海を結ぶ交通の要衝だということなのだろう。

「ちえなみき」ができるまで

「ちえなみき」の説明会で対応してくれたのは、2名。「ちえなみき」を運営する丸善雄松堂の方、敦賀市都市整備部の方。

「ちえなみき」の構想は、市の一人の職員 (当時、係長) の熱意から始まったという。部類の読書好きらしい。

敦賀駅西側の広場を再開発し、公園、立体駐車場を作るとともに、市が主体となって本屋のプロデュースに乗り出した。入札を落としたのは、丸善グループ。そして、建物の一部を市がレンタルして、公共施設やお土産屋を運営している。

「ちえなみき」の特徴

「ちえまみき」は敦賀駅から徒歩1分。駅前ロータリーのすぐ横にある。

1Fは松岡正剛さんの編集工学研究所の選書と本の並びのデザイン。通常の本屋や図書館での本の並びとは全く違う。内容分類なので、専門書の隣にマンガや児童書があることもある。

本棚が建物に対して水平に並んでいるわけではない。迷路のように入り組んでいて、歩いていて楽しい。本棚の高さもまちまちで、段々になっている。本棚が抜けていて、向こうが見える箇所も多い。引き出しのある本棚もある。

壁に木の絵があり、その途中に植物や昆虫の図巻があったりする。また、海から天に伸びるデザインの壁では、棚の下に水中の植物や動物の本、真ん中に地上の本、上の方は宇宙の本が並べられている。

2Fからは、迷路のような本棚全体を見渡せる。夜にはそれがライトアップされ、木のように見える。まさに「知恵の木」だ。

店内には、抹茶のカフェがあり、飲食は自由だ。説明を聴きながら抹茶ミルクを飲んだが、とても美味しい。説明員の方も、「美味しいし、地元愛もある。是非にと思って、店舗を出してもらった」

飲食自由となると、風紀が乱れることも心配される。しかし、私が見ていた限り、飲み食いはせいぜい飲み物くらいで、弁当を食べている人はいなかった。大声で話し合っている人もいない。説明員によると、普段もそんな具合だという。自由にしているが秩序は保たれているのだという。

店内は立ち読み自由。座るスペースが多くあり、皆、思い思いに本を読んでいる。店の前は広い芝生になっており、店の本は外に持ち出してもいいのだという。これは驚きだ。性善説にもとづいて、盗みはおきないと信じているのだという。

「本が汚れないか」と問うと、そういうこともあるだろうけど、あまり問題にしないという。店の本は売り物であるけど、読み物でもある。少しすれた本などがあっても、買う人はそんなこと全く気にしないで買っていくという。美しい社会に思えた。

福井ゆかりの本や、福井ゆかりの作家のコーナーもある。紫式部、俵まち、敦賀気比高校など、福井ゆかりのコンテンツが意外と多いことを実感する。南部洋一郎が福井出身だったことも、その場で認識。福井出身の漢字学者・白川静の本を買ってきた。

2Fにはブロックゲームのコーナーがある。絵本も幼児向けから大人向けまで。幼児が遊ぶコーナーもある。

オープンの議論スペースもある。そこで、議論することもあれば、講演会をしたり、セミナーをしたりするのだという。閉じられた空間ではなく、音はだだもれだ。でも、それがいいのだという。ものづくりのセミナーや講習会など、これまで公民館でやっていたものを好んで「ちえなみき」でしたがる人もいるという。

2Fの窓側には、机が並んでいる。電源も取れる。そこで、仕事や勉強をしている人もいる。図書館だと考えれば、勉強する人がいるのは当たり前だが、書店で勉強する人は少ない。その意味でも「ちえなみき」は図書館と書店の中間か。

感想

説明員は2人とも楽しそうに話す人だった。説明もうまいし、こなれている。仕事に熱意をもっていることがよくわかる。

「ちえなみき」の店長の日誌を見せてくれた。店員とお客との接点が多いことがうかがえる。通常、本やの店員がお客と接点を持つことは少ない。本を選びたい人は静かに選びたいのであり、店員からの話掛けを避けたがるものと考えがちだ。しかし、ここでは少し違うようだ。本を探すときだけでなく、お客は店員に普通に話しかけ、店員もお客に積極的にコミュニケーションをとっている。

「ちえなみき」では、営利企業として必須の「稼ぐ」ということを意識していないように見える。説明してくれた人からは、「とりあえずやってみよう」という前向きな発言が多く見られた。「人を集めたい。楽しませたい。そうすれば、何かが起こる」と考えているようだった。

説明を受けたのは、午後3時から5時まで。その後も、私はお店に居続けた。結局、閉店の20時まで5時間、私はずっと店内にいた。それができる快適な場所だったということだろう。お茶を飲んだり、店内を歩いたり、店内の本を読んだり。楽しく刺激的な時間を過ごした。